友人さんが亡くなって彼はその最後の場所に行くと言った。
それはとある公園。
夜に友人さんは一人でその目的を果たすために木立の中へと歩いていった。
奥さんとの思い出の品を持って。
この世での最期の友人さんはどんな景色を見て、どんな思いだったのだろう?
その気持ちに寄り添いたかったのか彼は夜にそこに向かうという。
私は一人で行かせるのが不安でついていくことにした。
友人さんの足跡を辿る。
広い公園で、街の灯が見える坂道をゆっくりと登り、何度も何度もその灯を振り返っている。
だんだんその灯が見えなくなる。それでも振り返り、振り返り。
そしてついに見えなくなった時、暗闇に視点を向けている。
その灯は友人さんを引き止めることはできなかったのだ。
まっすぐ暗闇へと歩いて入っていく。
私は、辿っていく中で、様々な別のものに肩を叩かれ、鳴き声や悲鳴を聞き、無念のアピールをする存在に耳鳴りがしていた。
「ごめん。これ以上は無理やわ。よう行かん」
そんな私のヘタレ宣言で、その日はそこまでだった。
後日、日中に行こうとリベンジを申し出た。
それでも一緒に来て良かったと思った。
そんな存在の気配を感じようが、感じまいが、そこにそれだけの何かがいるのは変わらない。
友人さんを思って、辛い気持ちのままその場に一人で向かわせることはとても危険なことだと思う。
後日、おそらくここであろうという場所を見つけた。
それまでに様々な思いを込めて写経をし、その場に手向けた。
その時、友人さんは嬉しかったのか、そんな気持ちに照れたのか、木のウロ(木の横に空いた隙間、穴)を指差し
「見て!めっちゃエロない?」とニヤニヤして来た。
私はちょっとイラッとし、大きくため息をついた。
「はぁ?なに茶化してんの?」と心で思って小さく舌打ちをした。
彼は、「どうしたん?」と聞いてくれたが、「なんでもない」ととりあえずお経をあげて、近隣のお寺さんにお参りして帰った。
彼は、まだ実感がなかったんだと思う。
葬儀に出ても、お骨を拾ってもそれでもまだピンとこないままのようだった。
そして、友人さんも。きっとまだピンと来ていない。
「なに辛気臭い顔してんねん」とでも言いたげだった。
それから一週間後くらいに、やっと彼に話した。
「友人さんな、お経あげにいった時、木のウロを指差して『めっちゃエロない?』って言うて来たん」
「そういうやつやねん!イラっとするやろ!それが友人さんやねん」
と、懐かしそうに、でも寂しそうに彼は笑った。
つづく