94歳

最年長の友人は、今年の2月に転倒し大腿骨を骨折。
一ヶ月入院したのち、そのまま施設にいた。
現在もリハビリは続けている。

本人は
「ご飯もしてくれはるし、なんもせんでええ。
なんでもまぁまぁ美味しいし、せやけどなぁ。
あんなとこおったらボケてまう。
こんなばあさんボケたら難儀やでぇ〜。
えらい迷惑な話や。だから逃げてきたってん」

といって、一人暮らしの家に舞い戻ってきた。

透明のガラスに豊かな水を湛えた雨雲を閉じ込めたような
美しいグレーの目のその奥には、まだまだエネルギッシュな光が見えて、

「確かにそれは酷なことやなぁ」と思った。

「息子にえらい怒られた。一人でおったら心配やっていうてな。
せやけど私、そんなとこおったら辛いねん。
どんどんボーッとしてしまう。そない言うたってん。」

もうすぐ70歳になろうとする息子さんの気持ちもわかる。

思って思われて、強いように見えても心配で。

側から見るとそのどちらもが愛しくて、でも切実な思いもわかるだけに
なんとも言えなくなってしまう。

そうやって少しずつ何かしらのきっかけがあって、歩み寄って、
一つの交わる点を生み出せる時がくればいいな。

いつか誰しもが迎えるその時も、優しい時間でありますように。

そう願ってやまない