七十二候 虹始見(にじはじめてあらわる)

春が進んでいくと湿度が増し虹が生まれやすくなる。
急な雨、春雷、空の表情がめまぐるしい。
万華鏡のようだ。

三年ほど前、生まれてはじめて虹の足元を見た。
函館に出張中に移動のため車を運転していて、海から函館山に向けて虹が立ち上がり天に昇る虹の下をくぐった。
フロントガラス越しに見た虹の足元がバックミラー越しに見えた。
確かにくぐったのだ。

残念ながら車を走らせていたたため写真を撮ることは叶わず、今となってはあまりにも夢のような光景で「あれは本当だったのか?」と自分で自分の記憶が疑わしい。「白昼夢だったのかもしれない」とさえ思ってしまうほどだ。

だが、その情景を同じ車に同乗していた人も当たり前に見ていた。
誰も写真を撮ることは叶わなかったけど、はっきりと見たのだ。
彼女は助手席で身を後方に向けてはっきりと振り返ってみていた。
「あれは夢なんかじゃない」
お互いに確かめあえる仲間がいることはありがたい。

その時に一つ深く理解したことがある。

「1人で不確かなものは、何かしらのアクションの最中に共有できればそれは確かな事実となる」
誰かと時間を共にすることの幸せはこんなところにもあった。

写真の虹はこの春のお彼岸頃の虹。