三月十六日 七十二候 菜虫化蝶(なむしちょうとなる)
イモムシからサナギになり冬を越えて、美しい羽を持った蝶になる。
地をゆるゆると這い、柔らかい草葉を食んで瑞々しくしなやかな幼虫は、
蛹化し、成虫の形をなぞらえるかのような型に収まり冬を越す。
蛹の間、ただ一つの核の点を残し、その他は液体のようにどろっとしており、そこから新たに完全なる変態に向けてのプログラムを粛々と進めて、あの形を作り上げていくのだ。
あの静寂の中にそんな劇的なことが起こっている。
以前聞いた話で、蛹をよく切れる刃物で切ると核がある部分のみが蝶として羽化するそうだ。
核を半分に切ると、小さな蝶が二匹生まれるらしい。
その実験を目の当たりにしたわけではないので、真偽は定かではないが、その見事さに驚いた。
一番驚いたのは、過去には全く執着なく変容させてしまうそのシステムだ。
いわば幼虫の間は栄養をひたすら吸収し、貯蔵する。そのために生きていると言っても良いくらいの思い切りの良さだ。
さらにその姿へのプログラムは、おそらく核に収まっていて、材料の質量に関係なく作り上げるほどに臨機応変であることだ。
そのことを知ってから、蝶々が神々しく見えてならない。